万年筆と祖父の思い出

おはようございます。

本日の題名は「万年筆と祖父の思い出」です。

ごゆるりとお付き合いいただけると嬉しいです。

 

ある日、唐突に

絵を描こうと思った。

白い紙をびっしりと

細かい絵で埋めるのだ。

多分、ちょっと前にテレビで

テキスタイルデザイナーさんの特集を見て

その影響を受けたのだと思う。

絵を描くのが得意かと問われれば

残念ながら否、である。

現に、これ以来、

全く描いていないし↓

 

kazanekko.hatenablog.com

 

それなのに、どうして

描こうと思い立ったのかは不明。

ただ、こういうことは時折あって

さらに、『できるはずだ』という

これまた傍迷惑な、根拠のない自信まで付く。

こういう状態になると

いつまでたっても

頭から離れないから

さっさと実現してしまうことにする。

それで、まず

何でその絵を描くかを考えた。

鉛筆か、ボールペンか

はたまたサインペンか。

どれも、しっくりこなくて悩む。

それで、思い出したのが

クローゼットの中で眠っている万年筆。

 

万年筆、といえばすぐ

亡き祖父を思い出す。

祖父の机にはいつも

万年筆が置いてあった。

 

祖父は郵便物が届くと、いつも

台所でそれを開封

中身にじっくりと目を通す。

そして、そこから

必要な書類だけを抜き出して

自分の書斎へ持っていく。

書斎には祖父の机があって

その机の引きだしから

ノートを取りだし、机の上に広げると

傍に置いてある万年筆を手に取って

なにやら丁寧に書き込んでいく。

一体なにを書いているのか気になって

あるとき、祖父に尋ねてみたら

自分が死んだ後に困らないように

必要となることを書き残していたのだった。

「ほら、おばあちゃんでは分からないだろうから。

 こうやって残しておけば、

 かざねっこちゃんのお母さん達がやってくれる」

祖父は照れ笑いしながら

そんなふうに話していた。

そこに私は

祖父の祖母への想いが

溢れている気がして

祖父が書類を持って書斎へ向かう度に

一緒に付いていっては

祖父が万年筆で字を書いている姿を

傍でじっと眺めていた。

 

だから、祖父が亡くなって

形見になにが欲しいかと母に聞かれたとき

私の頭に真っ先に思い浮かんだのは

祖父の使っていたあの万年筆だった。

母は「わかった」と言って

すぐに探してくれたけれど

残念ながら、その万年筆は見つからなかった。

多分、その万年筆は

それなりに高価な物だったから

誰かが先に持っていってしまったかもしれない

そう、母に言われて

もしそんな理由で

持って行かれたとしたのなら

悲しいなぁと思った。

ただ、あとから

昔、祖父に「万年筆をあげようか」

と言われたことを思い出した。

そして、私はそのとき

「万年筆は使わないから、いらない」

と断っていたことも。

思い返してみれば

祖父はあれくらいから

急に終活をやり始めて

いろいろな物を手放していたから

あの時に処分してしまったのかもしれない。

ということを母に伝えたら

インクは机の引き出しに残っていたから

多分、最期まであったはずだという。

だとしたら、万年筆を譲受けたその人にも

私と同じような

万年筆に纏わる祖父の思い出が

あるといいなと願う。

母に「なにか、他にない?」と言われたけれど

自分にとってはそれと同じくらいに

欲しいと思えるものが思い当たらない。

だから、「いらない」と答えると

母は、特に祖父と仲の良かったのは私だったから

私になにか祖父のものを渡したいと思ったようだ。

「そうだ!いいものがあるわ」

と言われ、後日渡されたのが

この万年筆。

祖父が母へ何らかのプレゼントとして贈った万年筆。

「おじいちゃんがくれた万年筆だから、同じでしょ」

とのこと。

 

スミマセン。

ナニガ、ドウシタラ『同じ』ニナルノカ

ダレカ、オシエテクダサイ。

 

もう、私の大切な思い出とかなんとか

全部すっ飛ばされてしまった気がする。

私は決して、万年筆が欲しいわけではない。

祖父の、特に印象深い思い出が

万年筆にあったから

それが欲しいと言っただけ。

でも、それを説明したところで

この母には伝わらないことは

これまで経験上、よくわかっている。

ただ、困ったのは

無理矢理押し付けられたように

私の元に置いてかれた、この万年筆。

私が望んだ物ではないけれど

祖父が関わっていることには違いなくて

どうしたものかとクローゼットの中に

保管してあったのだ。

思い立ったが吉日。

クローゼットの中から箱を取り出して

箱の蓋を開ける。

中には万年筆と、それからインクが入っていた。

どうやって、インクを取り付ければいいのだろう。

急いでネットで検索する。

多分これでいいよね、と

恐る恐るセットする。

してみたものの、いざ紙に書いてみようとするも

全くインクが出てこない。

改めてネットで調べると

どうやらセットしてから、インクが出るまでに

時間がかかるものらしい。

ドキドキしながら、何度か試し書き。

しばらくして、ようやくインクが出てくる。

真っ黒というより

紺色寄りの黒色。

まずは、何本か線を描いてみてる。

それから、少しずつ簡単な絵を描いてゆく。

花とか葉っぱとか。

描いてゆくうちに

段々、焦ってくる。

思うように線が描けない。

しばらく、絵を描かなかったせいだろうか。

でも、少し前に描いていたといっても

直に指でタブレットに描いていたから

関係ない気がする。

おかしいな、私、

こんなに絵が下手だったかしら。

絵を描きたいという気持ちが

どんどん萎んでゆく。

しばらく描いているうちに

この万年筆は絵を描くよりも

いつか、物語を書くときに使う方が

いいんじゃないかと思う。

うん。

なんか、そちらの方が

しっくりくる。

 

絵を描くのをやめて

入っていた箱に万年筆を戻す。

そのまましまいに行こうとして

ふと思い出す。

そういえば、私

いつかの物語を書くためのペンを

沢山持ってなかったっけ。

小学生のころ

いつか小説家になることを夢見て

サンタさんにお願いしたボールペン。

なにかお祝いの際にいただいて

いつか、物語を書くときに使おうと思った

ボールペン。

そこへ、さらにもう一本

万年筆が加わって。

 

いつかのための道具は

もう十分に揃っているのに

肝心の物語は未だに書けず

夢を背負って眠るペン、三本。