この才能だけは受け継ぎたくなかった+おまけ

おはようございます。

かざねっこです。

本日の題名は

『この才能だけは受け継ぎたくなかった

 +おまけ』です。

ごゆるりとお付き合い頂けると嬉しいです。

 

私と母は似ている。

顔がそっくりなのだ。

昔、祖父が私に一枚の写真を見せてくれた。

「これ、かざねっこちゃんだよ」

それは、汽車の前で撮ったであろう写真。

いや、ツッコミ所は満載だ。

まず、私は汽車に乗った覚えがない。

そして、なぜか白黒写真。

ただ、違うとはっきり否定ができないのは

そこに写っている女の子の顔が

紛れもなく私に瓜二つだったから。

母にこの話をしたら

「白黒写真なんて、私に違いないのに。

 おじいちゃん、ついにボケちゃったのかしら」

と心配していた。

私は、母の顔を見ながら

『将来、こんな顔になるのか』と

自分の将来なるであろう顔を心配していた。

 

顔がそっくりな私と母。

性格は断じて違うと主張したいが

主人はそっくりだと言う。

どんなところが?といえば

まあ、返ってきた答えに

あまりにも心当たりがありすぎて

反論の余地がない。

それが、モノを「壊す」ということ。

ちなみに、このことで主人は

私の両親に結婚報告をする際

私の父から言われた言葉がある。

「この娘(こ)で本当にいいの?苦労するよ」

娘の前で何て言うことをいうのだと思うのだけれど

結婚後、私がモノを壊す度に

このことを思い出しては

感慨深げにこう言う。

「親父さんもきっと、苦労してきたんだな」

そして、私のことを時々、こう呼ぶ。

『デストロイヤー』

なんとも不名誉な名前。

ただ、今のところ

その名を返上できる見込みはない。

 

さてさて

そんなわけで、私はこの

モノを「壊す」という能力を

からしっかり引き継いでしまっている。

そして、今回は

私の家へ母が泊まりにきたときのお話。

 

それは、三人目が生まれて初めて

主人が出張で何日か

家を空けることになった時のこと。

そもそも、主人が出張することは

滅多にない。

さらに、そのことで外泊するということは

ほぼ、ない。

今はまた特に

末っ子に手がかかるから

なるべく無いようにして欲しかったのだけれど

その時は非常事態だったため

そうせざる負えなかったのだ。

そこで、助っ人に私の母を呼ぶことにした。

母は私が結婚する前から

「私は孫育てはしないから」

ときっぱり断言していて

だから、まあ、そうなのだろうという認識で

義母に助けてもらいながら

子育てをやってきたのだけれど

その時ばかりは義母への負担が

大きすぎるということで

母にお願いすることになったのだった。

 

そして、母が我が家にやって来た。

それまでも、気まぐれに何回か

遊びに来たことはあったけれど

今回は初めて『泊まりにくる』ということで

それはまあ、末っ子を除く子供達は

大歓迎、大喜び。

言うことは聞かない

いつもやることをしない

一日目からかなりテンション高めで

こちらはその対応ですっかり疲れてしまっていた。

そして、お風呂の時間。

我が家では上の子と真ん中の子が

ある程度の年齢になったので

このふたりのお風呂を先に済ませる。

そして、そのあとに

私と末っ子が一緒にお風呂へ入る。

そして、この日も

いつもと同じように

上の子の体を洗おうとしたら

上の子が「自分で体を洗う」と言い出した。

きっと、母の前で、

自分がひとりでもできる姿を

見せたかったのだろう。

一方で、疲れていて

早く皆のお風呂を済ませてしまいたい私。

険悪ムードの中で母が

「私が上の子ちゃんを見ているから

 その間に他の用事を済ませたら?」

と、言ってくれた。

そこで、私はありがたく母の提案に乗り

上の子を母に任せ

リビングで末っ子を見ながら

他の家事をしていたのだけど・・・。

 

突然、母と上の子の様子を

洗面所で見ていた真ん中の子が

リビングに駆け込んできた。

「ママ!大変!扉が、扉が壊れてる!」

扉?

なぜか頭の中で

お風呂の蓋を想像し

いや、我が家にお風呂の蓋は無いぞ

と打ち消して

とりあえず、お風呂場へ向かう。

そして、お風呂場で目にしたもの。

我が家のお風呂場の扉は

折戸になっていて

片側だけが開く。

ここまではいい。

ただ、おかしいのは

開かないはずの片側が

開いているのだ。

えっ、なんで?

「ごめん。どうして、こうなった?」

頭の中はもはやパニック寸前で

でも、なるべく冷静に質問する。

「わからない。開けようとしたら、

 こうなったのよ」

いや、普通に開けようとして

こうはならんよ・・・?

どれだけの怪力よ?

ツッコミがづらづらと

頭の中に浮かんできた。

でも、今は悠長に

ツッコんでいる場合ではない。

口元まで出かかったツッコミを

全部飲み込む。

母は折戸をもとの位置に戻そうと

扉をがしがし動かしている。

端から見ていると、今にも

完全に扉が取れてしまいそうで怖い。

急いで母に加勢しながら

疲れた頭をフル回転して考える。

まず、この状態で直らなかったら

急いで主人に連絡して

修理を頼まないといけない。

でも、その前に

まだ、お風呂に入っていない子供がいる。

お風呂場の扉が開いた状態で

子供たちの体を洗わないといけないから

外にお湯が出ないように

注意しないといけないし

なんや、かんや。

なかなか、元通りにならない扉に焦りながら

というか、なにより

なんで母はこんな時にまで

いらない能力を発揮しちゃうのかな、なんて

もう半泣き状態の中で

ふと私の脳裏に浮かんできた公式。

母=デストロイヤー

私=デストロイヤー

デストロイヤー×デストロイヤー=

 

これって、もうこの扉

壊れる運命しか無いじゃん・・・(涙)

 

奇跡が起こることを祈りながら

どれくらい時間がかかったかは

覚えていない。

二人とも、もう必死だったのだ。

確か、まだ3月の中旬くらいで

すこし肌寒いくらいだったと思う。

でも、気づいたら二人とも

冷や汗やら何やらの汗で

びっしょりになっていて

それでも、なんとか無事、

扉は直ったのだった。

 

そして、現在。

「ママ、これ、取れてるよ」

我が子が壊れた何かを持ってくる。

でも、ママは知っている。

さっき掃除したときは、それ

くっついてたよ。

「触ってない?」

「持ったら、取れた」

もしそれが本当なら、

貴方どれだけの怪力よ?

はて?

このツッコミ、どこかでしたような・・・

子供から壊れた物を受け取って

一応、壊れた箇所を確認する。

多分、

私では無理だ。

でも・・・。

「パパが帰ってきたら、見せてごらん。

 直せるかもせれないから」

言いながら、思う。

子供のころ、私もよく母に言われたなぁ。

きっとこの台詞も

母から譲り受けた能力とともに

受け継がれてゆくのだろう。

そして、主人もいつか

子供たちのパートナーに言うのだろう。

「この子でいいの?苦労するよ」

 

我が子達よ

どうかその能力を受け入れてくれる

寛大なパートナーを見つけてください。

 

おまけ

それはお風呂騒動を経て

子供達を無事、お風呂へ入れ終えた後の話。

私と母はダイニングにある椅子に腰を掛け

二人でまったりお茶を飲んでいた。

「そういえば、真ん中の子ちゃんも

 ひとりで体を洗えるのね」

母がお茶を啜った後に発した一言に

私は飲んでいたお茶を

吹き出しそうになった。

あの子は生まれてこのかた

ひとりで体を洗ったことなど一度もない。

「しかも、ひとりで綺麗に顔も洗えるように

工夫までしている」

一体、我が子はなにを披露したのか

興味しかない。

「それで、なにをやったの?」

私の反応に母は少し怪訝な顔をしながら

「ボディーソープの泡を

 ハンドタオルの全面に塗ってね。

 両手にそのタオルを乗せて

 こう、顔にペタって」

そう言って両手を広げ

母は自分の顔を

その広げた両手に向かって

伏せる仕種をした。

「もう、なるほどと思ってね。

 確かにそれなら、顔に泡が綺麗につくわ」

私はお茶を飲みながら

そのときの様子を思い浮かべた。

上の子に続いて

いいところ見せたかったであろう真ん中の子。

とっさに機転を利かせて

この方法を思いついたのであろう。

そして、それをいかにも

『いつも』やっているかのように

堂々と母の前でやってのけたのだ。

やってくれたな、我が子よ。

そう思ったら、なんだかお腹の底の方が

段々、こそばゆくなってきて

気付けば、感心している母の目の前で

テーブルに突っ伏し、声を出して笑っていた。

 

最後までお付き合いいただき

ありがとうございました。